菓子器(鹿蒔絵入) 象彦(九代目西村彦兵衛)
この鹿蒔絵を見ていると、春日大社の神域「三笠山(若草山)」を思い出します。
称徳天皇の頃、平城京鎮護のため、鹿島神宮の武甕槌命を祭神に勧請した
「白鹿の背に乗つて御蓋山に奉遷された」
という伝説により、奈良のシカは、神鹿(しんろく)として神聖視され、
愛護されてきたそうです。
春日山峰のあらしやさむからん
ふもとの野べに鹿ぞ鳴なる(権中納言公勝)
「一聲(一声)」のような悲哀な鳴き声。
人々は鹿に特別な「何か」を重ね合わせていたのかもしれません。
世界各地の山野に数多く生息していたシカ科の動物は、
ほとんどの民族の文化に対して古くから重要な影響を与えていたようです。
仙人がしばしば乗騎とする白鹿や、
月の女神アルテミスの水浴を見たアクタイオーンが鹿に変えられる話(ギリシア神話)、
源義経率いる奇襲部隊が、平氏の背後をついた「鵯越の逆落とし」にも
鹿が関連しています。
この干菓子器(鹿蒔絵入)は、周りの黒の中に赤色のある、
所謂、赤と黒の対比が絶妙で、鹿の金色が映えています。
赤と黒の対比といえば、
スタンダールの『赤と黒』が思い浮かびます。
「赤と黒」のタイトルの由来は、主人公(ジュリアン)が、
出世の手段にしようとした、軍人(赤)と聖職者(黒)の服の色を
表しているとされています。
象彦製なので、使用後はよく拭いてからしまってください。